快楽とDopeのインターフェイスについて

既存案件の追加機能で「施設サーチ」をリリースした。今回はまさにプロトタイプ開発の恩恵を存分に発揮してほとんど自分の好みで作ってしまった。
サンプル:帝国ホテル

従来からの空室表に加え、今回新たにリコメンデーション機能を追加した。開発者からすればこれは「似たもの検索」なのであってリコメンデーションではないのだが、周りの人がどう捉えようとそれぞれの好みだ。そのへんがアートっぽくてWebアプリケーション開発は面白い。似たもの検索のロジックも、アマゾンなどがやっている購買履歴やユーザ行動などに基づくものではなく、JTBが長年かけて造成した宿データに基づくものなので、一味違ったテイストが気に入っている。ぜひお試しあれ。

似たもの検索を発案したそもそものきっかけは、YouTubeだった。YouTubeで土曜の夜中に動画をだらだら見ていて、なぜこんなに無駄に時間を使ってしまうのだろうと自己嫌悪に陥っていたのだが、その原因は明らかだった。YouTubeはDopeだ。何がDopeかって、一本の動画を見終わると、次に見たくなるような動画のリストが表示されているところだ。見た動画が面白ければ、「こんな感じのでもっと面白い動画ないかな」と思うし、つまらなければ「こんな感じなんだけどもうちょっとこういう動画ないかな」と思わされるのである。YouTubeの爆発的なヒットはもちろん仕掛けのタイミングや帯域をはじめとするバックボーンの強さがなければ成り立たなかっただろうが、それらと同時にDopeなインターフェイスは他のフリー動画アップローダーに比べて群を抜いていた。もしYouTubeに似たもの動画リストの表示がなかったらここまでヒットしていなかっただろう。

YouTubeのDopeな面といえば、もう一つある。こちらは各所で取り上げられているが、動画コンテンツの長さ制限。確か10分以内という制限があって、映画のコピーなどはアップできない仕組みになっている。それが逆に効果的なDopeを生み出していて、たとえば2時間の映画を一本みたいと思うにはかなりの気合が必要だが、30秒のCMを240本見るほうが飽きない。当然だが動画の面白いシーンを見るにはいきなりシークして面白いシーンにジャンプしてもだめで、面白いシーンに続くまでの数分を見なければならない。で、盛り上がったところでおしまい。映画を見終わったあとには完全な脱力がやってきてしばらくコーヒーでも飲みながら余韻に浸りたいところだが、10分以内の動画でその快楽はやってこない。むしろ「ちょっと足りない」ぐらいで焦らされてしまう。そこに上述のおすすめリストが表示されれば、誰とて飛びつく。(逆に、だからGoogle VideoYouTubeを越えられない)

このDopeな感覚は、テレビの時代から変わっていない(テレビ以前のエンターテインメントのことはよくわからない。生まれていないから)。要は「ダラダラ続けてしまう」という感覚だ。これはネットでは実は重要な要素だと思うのだが、あまり世の中の人は言及していないように思う。「わかりやすいインターフェイスデザイン」とか「迷子にならないサイト作り」とか綺麗ごとのようなWebデザイン論は多いが、押したくなるようなボタン画像を作るのも、リンクを散りばめてユーザーを誘導するのも、パンくずリストを用意するのも、全てはこのDopeな感覚をユーザに植え付けるために行われるべきだ。それに成功したのが2chであり、WinMXであり、Mixiであり、YouTubeだ(ついでに言うとドラクエをはじめとするゲームもそうだ)。

なぜDopeなインターフェイスがネットにこそそぐうか。クリックと遷移で成り立つ世界だから。画面の面積と解像度は有限、人間の可視領域も有限、となれば一度に表示できる情報の量は有限。コンピュータがいくら発達して大量の情報を処理できるようになっても、人間が一度に処理できる情報は有限。だからこそ、情報を小出しにして、「次へ」「次へ」と持っていくのが有効な手段である。そう、まさに売人が少年をヤク漬けにする手法と同じ。一度に大量のコカインを売りつけても、その少年は二度とコカインを買いには来ない。ところが、はじめはカネがあっても少しずつしか売らず、次第にその量を増やしていけば、あっという間にヤク中のいっちょあがりである。

そんなDopeなインターフェイスをもっと作れるようにこれからも頑張ります。