引用の魔力

明日引っ越します。

今週はDVDとニコニコ動画。ばっかりなダメ生活を送っているわけですが、ダメ生活はダメ生活なりに得るものがあるらしい。
取り敢えずDVDはこちら。


攻殻機動隊の映画の方(のちのタイタニックマトリックスに影響を与えたといわれる。1995年。)の続編となる作品で、あまりにディープすぎて前作を見ていても一回では内容が理解しきれない。

内容のディープさは見ていただければわかるとして、監督押井守の戦術に目を引かれる。

引用 - イノセンス関連情報まとめ

本を読んでるとき自分が好きな言葉にどんどんマーキングして背景を問わずにコラージュみたいに自分の作品内で使う

とあるとおり、引用のしかもどこで聞いたようなしかし意味不明の引用句が絨毯爆弾よろしく展開される。

寝ぬるに尸せず。 → 「いぬるにしせず」死人のように寝ちゃならねえ、と孔子様が言ったらしい。
孤独に歩め…悪をなさず 求めるところは少なく…林の中の象のように → これは仏陀の言葉とのこと。
春の日やあの世この世と馬車を駆り → もはやリズムだけですけど。

聞いたことがあるようで…ない。意味がわかりそうで…わからない。でも知っている人は知っている。知っていると「ああ、知ってるね」という、「つー」と「かー」みたいな、独特の連帯感が出る。まさにこれが「引用の魔力」ですわ。引用は、その内容や出典を説明してはならない。しれっと出す。それで知らなきゃ別にいいけど、みたいな。押井監督はその辺をシッカリおさえてらっしゃる。

しかしこの作品、CGやカメラワークから音響まわりまで、アニメという枠をすでに大きく超えている。圧倒しすぎていて、たぶん半分以上の人は拒否反応を起こすだろうな、と容易に想像できる。そのぐらい、ぶっとんでますぜ。ハリウッド映画なんて目じゃないですぜ。これからはアンテナの高い若者なんかがこぞってアニメを見るようになりますぜ。もうね、コンテンツとかDVDとかっていうより、ひとつの芸術作品ですよ。



次。

ニコニコ動画。出発は、このエントリー。

ニコニコ動画で行われているオープンソース現象 組曲『ニコニコ動画』 - WebLab.ota

自分はオフピークアカウントなので毎日見たりはしないのですが、たまたま見てしまったのが「組曲」。
ニコニコ動画内でヒットした動画・替え歌がクラブ系メドレーに編曲されて登場。日ごろからニコニコ動画中毒な人にとっては、「あ〜、いいチョイスだね〜」とか「そこでこのつなぎ方かよ」みたいな「引用の魔力」に引き込まれていくわけです。ただ、こちらも「わかるでしょ」という作者の意図が見え隠れしながらも、やっぱり内容や出典の説明はない。ただストイックに流れていく組曲。「誰か、説明してくれ〜」というかゆさと、「俺、俺知ってるぜ。教えてやるよ」という知ってる快感。両者のニーズをマッチさせるコメント機能。かくして狂喜と快楽と爆笑のスパイラルが朝まで昇華するわけです。

改めて人間の歴史って引用で成り立ってるんだと思わされます。文学や論文はもちろん、笑いとか音楽とかプログラムとか、ほとんどの創作活動は引用で成り立っている気がしてきました。

小説家は言葉を発明しているわけではなく、言葉を組み合わせているだけだ。
音楽家は音を創作しているわけではなく、音を組み合わせているだけだ。

ただ、イノセンス組曲も、極度に作品のクォリティが高い。引用すれば巨人の肩に乗ることができて楽チン♪ということは決してなくて、むしろ虎の威を借る以上虎を超えなければならない宿命にあることも確か。素材を生かすためには、ソースを構成するレシピ作りに長けていなければなりません。そういう意味で、いろいろな「技術」を学ぶことに喜びを感じる今日この頃。